静岡県立総合病院 森典子 先生(特別寄稿)
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更新日:2015年7月10日
医療の世界も遅ればせながらITが入り込み、dataの電子化が進みつつあります。病院では電子カルテもしくはオーダリングの普及率があがってはいるものの、中小病院を合わせるとまだ31%で、診療所では27%です。しかし、地域包括ケアを求められる新規開業医はほぼ100%の電子カルテ採用率となっており、今後は急速な電子化が進むと予想されています。
一方、世の中にはビッグデータを扱うインフラが整い始めています。医療のデータは大変魅力あるビックデータで、注目の的です。これまでの、各医師が個々の患者に対して行ってきた医療を集積し、病院単位、病院群単位で分析している時代から、学会単位での分析にとどまらず、近未来では全国規模のデータを扱おうとしています。そのためには様々な整備が必要です。そもそも個々のデータの入れておく場所、データの標準化、データの集め方、個人情報の取り扱いに関するルールやデータの分析責任の所在など、ハードルはいくつもありますが、すでにできるところから集めて分析という方向に動いています。現実にDPCデータ(医療費請求時に保険者に提出するデータ)を分析したり、SS-MIXという標準化ストレージに入った医療データを集めたりしています。
この結果は疾患分布だけでなく、今後は疾病感受性の分析、医療内容のバリエーション分析から標準化の方向への誘導、医療費抑制策の策定、さらには企業にとっては新薬開発などの経営の方向性を決める指標にもなり、集め方と分析を間違わなければ大変有用なものとなります。
Massを扱う産業界や行政にとってはビッグデータは大変有用ですが、個を扱う医療現場の医師にとっては得られたデータの解釈と個への応用が必要となり、解釈に当たっては一捻りも二捻りも熟考することが必要になります。
医師としてこれから活躍していく皆さんには個としての受け持った患者に対し、mass(これまで以上のmass data)から得られた知見をよくよく解釈したうえで応用していく能力をつけていただき、オーダーメイドの医療を実現できる実力をつけていただきたいと思います。
平成27年7月
ふじのくにバーチャルメディカルカレッジ創立記念式典にて(平成26年8月)